サックスの材質は、真鍮にゴールドラッカーの塗装が施されている物が最もメジャーですが、もちろんそればかりではありません。
管楽器の中では発明されてからの歴史が比較的浅いサックスは、様々な材質が使用され、塗装やメッキの種類もメーカーによってかなりの違いがあります。
そもそも「塗装」と「メッキ」は何が違うのでしょうか?そして、塗装やメッキ、使用されている材質によってサックスの音色にどのような変化が起こるのでしょうか。
今回は【サックスの塗装とメッキによる音色の変化とは?】についてご紹介します!
大垣女子短期大学音楽総合科卒業。
第16回長江杯国際音楽コンクール第5位。第61回大垣市新人招待演奏会出演。
これまでにサクソフォンを長瀬正典、渡邊愛子、遠藤宏幸に師事。
ヤマハ音楽振興会認定講師。浜松生涯学習音楽協議会指導員。
塗装とメッキの違いとは?
ここでは、塗装とメッキの違いについて見ていきましょう。
塗装とは?
塗装とは、目標物に対してスプレーやハケ、ローラーなどで塗料を塗る事で、様々な表面処理の手法の中で最も使用される機会の多い手法になります。塗装の目的として、
- 美観を付与する
- 劣化から保護する
- ラッカーの種類によって音色に様々な特性を持たせる
などが挙げられます。塗装の方法も数多くの手法がありますが、現代の管楽器の塗装手法として最も多いのが、塗料を噴霧するスプレーガンと管体に直流電流をかけて塗装する「静電塗装」になります。
噴霧された塗料の粒子は電気を帯びているため、菅体に引っ張られるように付着します。これにより、ムラなくまんべんなく塗装が施されるというわけです。
引用元:土屋製作所公式ホームページ
メッキとは?
菅体の表面に金属の膜を付与する加工処理をメッキと呼びます。メッキの効果としては
- サビに対する耐性が高い
- 外観の装飾性が高い
などが挙げられます。ラッカー塗料を塗る「塗装」に対して、真鍮の管体に別の金属の被膜を付与する加工になります。
また、楽器にメッキを施す最大のメリットは「響きに真鍮以外の特性を持たせることができる」ということでしょう。金属皮膜を付与する加工のため、楽器の重量は重くなり、吹奏感も抵抗感が強くなる傾向にあります。
メッキの手法にも様々なものがありますが、薬品や金属の溶けたメッキ液に管体を入れ電気を流して付着させる「電気メッキ」が管楽器のメッキの主流となっています。
引用元:大華工業株式会社公式ホームページ
塗装とメッキによる音色の変化とは?
塗装とメッキの違いはお分かりいただけたかと思います。ここでは、管楽器で主流になっている塗装・メッキと、その特徴についてご紹介していきます。
真鍮(イエローブラス)×ゴールドラッカー
真鍮とは主に銅およそ70%と亜鉛およそ30%の合金のことを指します。
サックスの材質としては最も一般的でほとんどのサックスがこの素材でできていますが、
銅と亜鉛の配合はメーカーによって微妙に違うのでそれぞれ個性がでます。
吹き心地は軽く、柔らかで明るい音色なのが特徴です。同じゴールドラッカーでも各メーカーの塗料の配合によって色合いが違います。
ブロンズブラス(コパー)
通常の真鍮よりも銅の配合が多いもののことを指します。特徴は通常の真鍮よりもより柔らかく丸い温かみのある音色になることです。
ヤナギサワのWO-2,WO-20は管体にブロンズブラスを採用しています。抵抗感はそこまで欲しくないはけれど音色は柔らかくしたい方におすすめです。
シルバープレート
主に真鍮素材の管体に銀メッキ加工したものを指します。特徴は真鍮よりも少し抵抗感が増し、芯のある落ち着いた音色になることです。ジャズプレイヤーの愛用者も多いです。
ヤマハ、ヤナギサワ(現在は休止中)、セルマーなどの各メーカー上位品番で主に受注生産されています。ジャズなどで少し渋くかっこよく吹いてみたい方などにおすすめです。
ゴールドプレート
主に真鍮素材の管体に金メッキ加工したものを指します。特徴はゴールドラッカーよりも少し抵抗感が増し、響き豊かで華やかな音色になることです。音がすごく立つので一般的にはソロ向きです。(リガチャーは除く)
ヤマハ、ヤナギサワ、セルマーなどの各メーカー上位品番で主に受注生産されています。
ある程度の抵抗感が欲しくて、華やかなキラキラした音色を出したい方におすすめです。
引用元:石橋楽器公式ホームページ
ピンクゴールドプレート
主に真鍮素材のものにピンクゴールドメッキ加工をしたものです。特徴は金メッキよりも少し抵抗感が増し、響き豊かで柔らかく甘い音色になることです。ヤナギサワ、セルマーなどの各メーカー上位品番で主に受注生産されています。
しっかりした抵抗感が欲しくて、柔らかく丸い太い響きの音色を出したい方におすすめです。
ブラックラッカー
主に真鍮素材のものにブラックラッカー塗装を施したものです。吹きごこちは真鍮より多少音がシャープにまとまるような感じになります。セルマー、ヤマハの82Zで受注生産されています。
個性的なサックスを持ちたい方におすすめです。
サテン
主に真鍮素材の管体に研磨をしないそのままの状態、もしくはハケ等で荒く研磨した状態にクリアラッカーを塗装したものを指します。見た目が古い楽器のようにくすんで見えます。
特徴は抵抗感が強くメロウな音色で、研磨していない分楽器の振動する表面積が増えるのでとても響き豊かです。主にセルマーなどで受注生産されています。
キンキンした音色が苦手な方、個性的なサックスを持ちたい方などにおすすめです。
アンラッカー(ノーラッカー)
主に真鍮素材のものになにも塗装や加工をしていないものを指します。新品の状態だとピカピカしているのですが空気に触れるとどんどん酸化していきくすんでいきます。
特徴は暗めな落ち着きのある音色で、くすみ方などによって音が変化するで楽器を自分好みに育成していくスタンスになります。主にヤマハの82Zで受注生産されています。
自分の個性を楽器に出したい、ジャズをかっこよく吹きたい、ヴィンテージ楽器に憧れがある方におすすめです。
番外編 ショットブラスト
管体にきめ細かいガラスビーズや砂を吹き付け、表面をハンマリングされたように硬くする加工法。強い抵抗感と張りのある音色、独特の風合いを生み出します。
サンドブラストとも呼ばれ、表面の保護にはクスミのあるマットクリアラッカーが施されるのが一般的ですが、銀メッキなどをかけたメーカー独特の加工も存在します。
番外編 ヤナギサワシルバーソニック(銀製)
抵抗感がしっかりあります。響き豊かで芯のある少し暗めな音色です。吹きこなすのにある程度のパワーを有するのでプロのユーザーが多いです。
番外編 セルマープラチナメッキ
かなり抵抗感があります。響きは豊かでかなり芯のある音色です。吹きこなすのにかなりのパワーを必要とします。
セルマーSERIEⅢ JUBILEEプラチナメッキ
引用元:野中貿易公式ホームページ
まとめ
いかがでしたでしょうか!管体の素材や塗装、メッキの方法で音色や吹奏感は大きく変わります。
各メーカーから続々と新しい技術を使ったサックスが登場していますが、これはまだまだサックスの塗装・メッキに可能性が秘められている事の現れかと思います。
文章での説明ではなかなか把握しづらい部分もあると思いますので、気になるものがありましたら是非楽器店に足を運んで試奏してみてください!