1840年にアドルフ・サックスによって発明されたサキソフォンですが、フルートやピアノなど歴史の長い楽器に比べてまだまだ若い楽器と言えます。
そんなまだまだ若いサックスですが、若いだけあって黎明期の楽器もまだまだ市場に出回っています。
現代においてヴィンテージサックスと呼ばれる、ジャズ・ジャイアンツを始めとする偉人達が好んで使用した銘機達を歴史とともに紐解いて行きましょう。
今回は【ヴィンテージサックス大全 その1】をご紹介します!
ヴィンテージサックス大全 その1
現在ヴィンテージと呼ばれるサックスは、ほぼアメリカです。それだけアメリカのジャズという文化がサックスに与えた影響が大きかったというわけですね。
アメリカのヴィンテージサックスはヨーロッパの物とは音色のイメージが違い、抜けの良さ、柔らかさが両立しています。また、全体的にジャズによく似合う音色でもありました。
現代楽器のような響きの煌めきや圧倒的ボリューム、操作性は期待できませんが、管体の経年変化も含めて、ヴィンテージサックスでなくては出せない音色を持ちます。
ここではヴィンテージサックスを代表するアメリカのメーカーをご紹介していきます。
C.G.CONN(C.G.コーン)
ヘンリ・セルマー・パリ社がアメリカに渡ってくるよりはるかに前の1800年代後半に創業したC.G.CONN。初期は様々な事業を手掛けており、楽器製造も事業の一つだったようです。
サックスは1888年頃から製造していたようです。C.G.CONNの歴史を表で見てみましょう。
発売年 | モデル名 | シリアル |
---|---|---|
1888年 | WONDER(ワンダー) | 0~32499 |
1915~1925 | NEW WONDER Ⅰ(ニューワンダー) | 32500~145000 |
1925~1930 | NEW WONDER Ⅱ | 14500~245000 |
1930~1934 | TRANSITIONAL(トランジショナル) | 245000~259999 |
1934~1962 | M-MODEL(Naked Lady) | 260000~940000 |
1935~1943 | M-カスタムモデル(コンクウェーラー) | 263500~309000 |
1950~1952 | コンステレーション | 32800~351000 |
※シリアルナンバーはめやすです
1915年のNEW WONDER Ⅰ発売後は瞬く間にアメリカのサックス界を席巻し、セルマーUSAが1948年に「スーパーバランスドアクション」を発表するまではジャズマーケット主流となっていました。
最も有名なモデルは1934年のM-モデル(Mシリーズとも)。ベルに裸の女性の半身像が彫刻されていることから「ネイキッド・レディ(またはレディ・フェイス)」とも呼ばれています。
ネイキッドレディの彫刻
C.G.CONNの特徴として、主鍵(メインのキイ)のトーンホールがまっすぐ配置されているインラインと、トーンホールの淵がカールしているカーリングトーンホールが有名です。
カーリングトーンホール(写真はKADESON T-92)
また、本来アルト・バリトンがEb、ソプラノ・テナーがBbであるはずのキイがCに設定されたCメロサックス、Fに設定されたFメゾソプラノサックスなどユニークな楽器も発売しています。
C.G.CONNはチャーリー・パーカー、デクスター・ゴードン、レスター・ヤングなど、後にジャズジャイアンツと呼ばれる多くのジャズプレイヤーに愛された銘機でした。
現在はセルマー・インダストリーズに吸収され、コーンセルマーとしてその名を残します。サックスも製造していますが、ヴィンテージとは別物と考えてよいでしょう。
BUESCHER(ブッシャ―)
創業者ブッシャ―はC.G.CONNで工場長も務めていました。外観もC.G.CONNに似ていますが、ブッシャ―のほうが軽い吹奏感で甘い音色が特徴とされています。
ブッシャ―のモデルの歴史を見て行きましょう。
発売年 | モデル名 | シリアル |
---|---|---|
1900~1932頃 | TRUE TONE MODEL(トゥルートーン) | ~250000 |
1932頃~1940頃 | ARISTOCRATE MODEL(アリストクレイト) | 25001~310000 |
1940頃~1963 | 400 MODEL | 310000~ |
※シリアルナンバーはめやすです
ブッシャ―も、C.G.CONNと並んで人気のメーカーでした。
その軽く軽快な音色が室内音楽にマッチしていたため、かの有名なデュークエリントン・オーケストラも、ブッシャ―のサックスで統一していたと言われています。
こちらもコーン同様ユニークな楽器を数多く開発しており、ストレートボディのアルトサックス、ストレートボディにベルだけ前を向いているティップドベルソプラノなどが有名です。
また、高度な技術を要する彫刻を施したもの、サテンゴールド、金メッキなど品のあるデザインも人気の秘密でした。
1963年にセルマーに買収されたのち、幾度とない組織再編によりその姿を消しました。
KING
KINGの歴史はトロンボーンから始まります。
KING社の創業者であるヘンダーソン・N・ホワイトと、トロンボーン奏者トーマス・キングが共同開発したトロンボーンを販売するために設立されたメーカーでした。
アメリカ国内でたちまち人気となったKING社は、トランペット、ホルン、ユーフォニアムと次々に金管楽器を開発し販売していきます。
サックスは当初、クラリネットで有名な「ビュッフェ・クランポン」のOEMで生産していましたが、1915年の契約終了をきっかけに、自社生産を始めます。
KINGの主なモデルの返還を見てみましょう。
発売年 | モデル名 | シリアル |
---|---|---|
1915~1935 | VOLL TRUE MODEL(ヴォルトゥルー) | ~160000 |
1935~1945 | ZEPHYR(ゼファー)【第1期生産】 | 179000~272000 |
1945~1975 | ZEPHYR(ゼファー)【第2期生産】 | 272001~511750 |
1945~1950 | SUPER 20【第1期生産】 | 275000-305000 |
1950~1955 | SUPER 20【第2期生産】 | 305001-338000 |
1955~1962 | SUPER 20【第3期生産】 | 338001-380000 |
1962~1967 | SUPER 20【第4期生産】 | 380001-426000 |
1967~1976 | SUPER 20【第5期生産】 | 426001-520000 |
1976~1998 | SUPER 20【第6期生産】 | 520001-800000 |
1994~1995 | SUPER 21 | 不明 |
※シリアルナンバーはめやすです
最も人気だったのはSUPER20。長期にわたり製造されていたため、製造された時期により仕様も異なります。
KINGもまた、様々な改良を行っています。Low B/Bbのトーンホールがベルの右側にあるのは今となっては普通ですが、ヴィンテージサックスの多くは左側に位置していました。
これを改良し右側に持ってきたのは、アメリカのヴィンテージメーカーではKINGのみです。
音色はブッシャ―と似た方向性の軽いボディと軽快なサウンド。トーンホール上面にリングを半田付けする事で密閉度を増す、ソルダードトーンホールもそのサウンドを決定づけています。
ソルダードトーンホール(写真はユリウス・カイルヴェルスSX90R)
現代ではシルバーソニック(総銀)といえばヤナギサワが有名ですが、これを世界で初めて製造したのもKINGです。
特有のモデルとして有名なのは、ローランド・カーク氏の使用で有名なSAXELLO(サクセロ)。
SAXELLO(サクセロ)
引用元:http://tomosax.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/king-saxello-de.html
アルトではチャーリー・パーカー、キャノンボール・アダレイ、テナーではウィルトン・フェルダー、ルー・マリーニなど、数多くの有名プレイヤーに愛されています。
現在はセルマー・インダストリー傘下に編入し、金管楽器のみ製造が続いています。
MARTIN(マーチン)
マーチンは、他のヴィンテージサックスメーカーに比べて管体に肉厚があり、重厚で直線的なサウンドが特徴です。
創業者のマーチン氏もまたコーンでのサックス製造を経験しており、デザイン面での影響を多大に受けています。
マーチンのモデルについてみてみましょう。
発売年 | モデル名 | シリアル |
---|---|---|
~1940頃 | HAND CRAFT MODEL (ハンドクラフト) | ~135000 |
1948~1958頃 | COMMITEE MODEL(コミット) | 160000~200000 |
1958~ | MAGNA MODEL(マグナ) | 200000~ |
※シリアルはめやすです
初期に発売されたHAND CRAFT MODELは、ほとんどのキイがボタンになっている事から「タイプライター」の愛称でもしたしまれていました。
1930年代の特徴である、ベルのトーンホールが左右に1つずつ配置される「バタフライ構造」も搭載されています。
バタフライ構造
最も人気なのはCOMMITEE MODELの第三世代、COMMITEE Ⅲで、The MARTINの愛称でも知られバディ・デイト、アート・ペッパーなどが使用していた事で有名です。
日本でもマーチンのヴィンテージが市場に出回っていますが、第二次世界大戦後の駐留米軍のジャズバンドの物だったようです。
まとめ
アメリカを代表するヴィンテージサックスのメーカーをご紹介してきました。
各メーカーともユニークなモデルを多数開発していますが、生まれて間もない楽器という事もあり、試行錯誤の歴史が見てとれますね。
この黎明期の試行錯誤が現代のサックスを形作ってきたというわけです。
今回は「ヴィンテージサックス大全 その1」についてご紹介しました。
最後まで読んでいただきありがとうございました!